建物明渡請求訴訟


賃料を長期間支払わない借主に対しては、賃貸借契約を解除し、建物を明け渡すよう請求することができます。そして、建物の明け渡し請求を訴訟によって行うのが建物明渡請求訴訟です。

家賃滞納に陥ってしまう借主は金銭的に切迫していることが多いですので、早めに手を打たなければ滞納家賃が増えていってしまい、結果的には貸主の損害が大きくなってしまいます。また引越し費用が支払えないことも少なくないため、立ち退きに時間がかかり、立ち退きまでの家賃も支払われないということもありえます。
したがって、早めに借主の方と話し合いや交渉を行い、応じなければ裁判所による手続きを利用することを考慮すべきでしょう。

建物明渡請求を行いうる事由としては家賃滞納に限られません。
貸主に無断で建物を又貸し(無断転貸)したり、賃貸借契約に基づく借主の地位を第三者に譲渡(無断譲渡)したりした場合には、賃貸借契約を解除し、建物明渡請求権を行使できることがあります。

しかし、上記のような事由があったとしても全ての場合において賃貸借契約を解除できるとは限りません。賃貸借契約が解除できる要件としては、下記のように借主の行為が当事者の信頼関係を破壊する程度のものである必要があります。

当事者間の信頼関係の破壊


賃貸借契約を解除するためには、借主の行為が当事者の信頼関係を破壊する程度のものである必要があることは上記で述べました。ここでどのような行為が信頼関係の破壊となるのかが問題となりますが、これについては一律な基準が設けてあるわけではなく、個別具体的な状況により異なります。

家賃の滞納については、目安として3か月分以上の滞納によって賃貸借契約の解除の通知を出すのが一般的だと思います。
しかし最終的には裁判所の判断にゆだねられますので、必ず解除できるということは言えません。借主が家賃を滞納している理由や、滞納に至った経緯など総合的に判断して、当事者の信頼関係を破壊していると認められば解除することができます。

あいまいな基準でわかりにくいですが、これから建物明渡を行う方がいれば頭に入れておくべき基準となります。

 

賃貸借契約の解除


建物明渡請求を行うには、どのような事由であれ、まずは現在の賃貸借契約を解除しなければなりません。したがって明け渡しを求める前に、賃貸借契約を解除する旨を記載した内容証明郵便を借主に送付します。
家賃滞納の場合には期日を定め、借主及び保証人に支払を求めます。その期日までに家賃の支払がない場合には、契約を解除する旨を通知します。そして通知した期日までに滞納している家賃を支払わなければ、賃貸借契約が解除されたことを根拠に、建物の明け渡しを求めることになります。

明け渡しの手続きについては以下の通りです。

話し合い・交渉・和解


貸主が任意に滞納家賃を支払ったり、建物明渡しに応じてくれれば、これ以上のことはありません。当事者間での話し合いがうまくいかなかったとしても、第三者である専門家が間に入ることで、交渉がスムーズに進み、和解による解決まで至ることも少なくありません。

まずは双方の言い分を聞き、納得いくような方法を模索することが大切です。当事者間で交渉事を行うと、どうしても感情が表に立ってしまい、譲る気があっても譲れない気分になってしまうものです。
最終的どのような解決を望んでいるのかを明確にし、損害額を少しでも少なくすることが大切です。たとえば、滞納家賃をあきらめて、早期に新しい借主を探したほうが、将来的な損失が少なくなることもあります。この場合、最終的な目的は建物の明渡しですから、「家賃は支払わなくてもいいので退去してください」と交渉することができます。借主側としても、このような交渉であれば受け入れやすいでしょう。

借主側の責任なのに、なぜ貸主が妥協しなければいけないのか?と思う気持ちはわかりますが、将来的な経済的利益や、裁判手続きにかかる費用を考え、和解という選択が一番の解決の近道であると言えるでしょう。

裁判所を利用した建物明渡請求


裁判外での話し合いがまとまらなければ、最終的に裁判所の手続きを利用して解決を図ることになります。

通常訴訟 簡易裁判所での通常訴訟は、訴訟の価額が140万円以下のものが対象となります。140万円を超える訴訟については地方裁判所の管轄になり、司法書士は訴訟代理をすることはできません。訴訟の途中で和解をすることもできます。
即決和解 相手方と裁判外で話し合いが進んでいる場合に、その話し合いの内容をもとに、簡易裁判所に対して和解の申立てをする手続きです。当事者のみで和解契約書を作成するよりも、裁判所の関与のもとで和解調書が作成されるため確実性が高く、その和解調書に基づき強制執行の申立てをすることができます。


訴訟を提起する場合には、建物明け渡しを求めると共に滞納家賃の支払も請求します。そうすることで強制執行手続きに移ったときに、建物明け渡しだけではなく、借主の財産があればこれを売却して家賃の支払に充当することができます。

 

占有移転禁止の仮処分

建物明渡請求訴訟を提起する場合には、占有移転禁止の仮処分の申立てをするかを検討しなければなりません。

占有移転禁止の仮処分とは、借主が建物の占有を第三者に移すことのないようにする、裁判所の命令です。
相手方が悪質な借主だと、建物の占有者を転々とさせるおそれがあります。裁判所の判決では、元の借主に対して明け渡しをするよう記載されていますので、現在占有している者に対しては、判決の効力は及びません。これでは現在の占有者に対して新たに訴訟を提起しなければならなくなり、費用・時間的な面でとても負担がかかります。
こういった事態を防ぐため、事前に占有移転禁止の仮処分を申し立てておくことにより、占有者は依然として被告である借主となるため、新たに訴訟を起こす必要がなくなります。

しかし占有移転禁止の仮処分を申し立てるには、保証金を供託する必要があります。建物の固定資産評価額によっては、高額になってしまう場合もありますので、個別の事案によって検討することになります。