交通事故等の不法行為についての損害賠償請求訴訟


不法行為とは、故意又は過失によって、他人の権利や財産を侵害する行為のことをいいます。以下が不法行為の例です。

● 交通事故によって車を故障させた
● 暴力行為により傷害を負った
● 詐欺や強迫行為によって金銭を奪われた
● 相手方の行為によって名誉を毀損された


他人の不法行為によって、自分の権利や財産が侵害された場合には、加害者に対してその損害を賠償するよう請求することができます。
損害賠償の請求は、裁判外・裁判内どちらで行っても構いません。したがって、相手方が任意に応じる姿勢を見せているのであれば、裁判外で和解をするほうが費用がかからずに済むので、経済的・時間的に負担が軽くなります。

しかし、相手方が任意に応じないのであれば、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、判決を得て賠償をしてもらうことになります。

法務大臣から認定を受けた司法書士は、訴訟価額140万円以内の簡易裁判所管轄の訴訟であれば、弁護士と同様に訴訟代理人として訴訟活動をすることができます。当事務所の司法書士は、当該認定を受けた司法書士でありますので、お客様を代理して訴訟を提起することができます。

不法行為の要件

① 故意又は過失によって権利や財産を侵害したこと
② 加害者に責任能力があること
③ 権利の侵害があること
④ 損害が生じたこと
⑤ 加害者の行為と損害の間に因果関係があること
⑥ 違法性阻却事由がないこと

 

① 故意又は過失による侵害


権利や財産の侵害行為について、加害者が、損害が生じることをわかっていながら行ったり(故意)、損害が生じないように注意する義務があったにも関わらず、それを怠った(過失)という要件が必要です。したがって、わざとでもないし、注意しても損害を回避できないような場合には、不法行為に基づく損害賠償請求は認められません。

 

② 加害者の責任能力


不法行為に基づく損害賠償請求は、民法上に規定されるものです。刑法上では14歳以上の者に犯罪行為についての責任能力を認めていますが、民法上では特に年齢に制限はなく、個別の事件ごとに責任能力の有無が判断されることになります。しかし未成年者による不法行為の場合には、その者の監督義務者(親権者等)が原則として責任を負うよう民法で定められています。
成人については責任能力が認められるのは言うまでもないですが、心神喪失状態にある場合には、責任能力は認められません。

 

③ 権利の侵害


権利の侵害とは、保護に値する利益を侵害することです。必ずしも法律で定められている権利のみが保護の対象となる訳ではなく、個別具体的なケースで判断されます。物に対する所有権や、商行為における営業権、人格に関わる人の名誉やプライバシーなども保護の対象となる権利となります。
これらの利益を違法に侵害した場合には、不法行為に基づく損害賠償請求が認められます。

 

④ 損害の発生


不法行為に基づく損害賠償請求は、損害があるからこそ認められる権利です。したがって、被害者に損害がない場合には、そもそも損害賠償請求は認められません。ここで言う損害とは、人体のケガや、物の故障など目に見えるものだけではなく、精神的苦痛や人の名誉など、目に見えない損害についても含まれます。

 

⑤ 行為と損害の因果関係


行為と損害の因果関係とは、「加害者の行為がなければ、損害が生じることはなかった」という関係及び「加害者の行為があったから、損害が生じた」という関係のことをいいます。したがって、加害者の行為がなくても同様の損害が生じたであろう場合や、他の要因によって損害が発生したと判断される場合には、不法行為に基づく損害賠償請求は認められません。

 

⑥ 違法性阻却事由の有無


違法性阻却事由とは、本来であれば法律上違法性を帯びた行為であるにも関わらず、その違法性を否定する事由のことです。違法性阻却事由には正当防衛と緊急避難があります。

● 正当防衛

正当防衛とは、他人の不法行為に対して自分や他人の権利を守るため、やむを得ず行った行為のことをいいます。(民法720条1項)この防衛行為によって第三者に損害を与えてしまったとしても、損害賠償責任は発生しません。例えば、自分の身を守るために他人の家に侵入した際に、扉を壊してしまった場合の破損行為などが正当防衛に該当します。
正当防衛は、他人の不法行為に対する防衛行為であることが、次の緊急避難と異なります。また刑法上の正当防衛とも意味が異なります。

● 緊急避難

緊急避難とは、他人の物から生じた危険に対して、自分や他人の権利を守るためにその物を毀損する行為のことをいいます。(民法720条2項)この他人の物の毀損行為によって損害が生じたとしても、損害賠償責任は発生しません。他人の家の塀が壊れそうで、自身の住宅を破損させるおそれがある場合に、この塀を無断で取り壊す行為などが緊急避難に該当します。
緊急避難は、他人のものから生ずる危険に対しての防衛行為であることが、上記の正当防衛と異なります。緊急避難に関しても、刑法上の緊急避難と意味が若干異なります。


正当防衛・緊急避難は法律で定められた違法性阻却事由ですので、このような事由に該当する行為は、違法性が否定され、不法行為に基づく損害賠償請求が認められません。

損害賠償請求権について


損害賠償の方法は、原則として金銭での賠償となります。しかし名誉毀損による損害賠償については、謝罪広告等での名誉の回復も請求することができる場合があります。

不法行為に基づく損害賠償請求権については、不法行為のときから債務不履行に陥るため、不法行為の時点から支払済みまでの遅延損害金も請求することができます。請求者は不法行為に基づく被害者となりますが、被害者が亡くなってしまった場合には、被害者の財産的・精神的損害は相続の対象となるため、相続人が不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することができます。

簡易裁判所における訴訟手続きは次の通りです

少額訴訟 60万円以内の金銭の請求を求める場合に、原則1回の審理によって判決が出される訴訟手続きです。訴訟の途中で和解をすることもでき、少額訴訟による判決書や、和解調書に基づき強制執行の申立てをすることができます。
通常訴訟 簡易裁判所での通常訴訟は、訴訟の価額が140万円以下のものが対象となります。140万円を超える訴訟については地方裁判所の管轄になり、司法書士は訴訟代理をすることはできません。また少額訴訟と同様、訴訟の途中で和解をすることもできます。
即決和解 相手方と裁判外で話し合いが進んでいる場合に、その話し合いの内容をもとに、簡易裁判所に対して和解の申立てをする手続きです。当事者のみで和解契約書を作成するよりも、裁判所の関与のもとで和解調書が作成されるため確実性が高く、その和解調書に基づき強制執行の申立てをすることができます。

 

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効


不法行為に基づく損害賠償請求権は、「被害者又はその法定代理人が、損害及び加害者を知ったときから3年」または「不法行為のときから20年」で時効により消滅します。(民法724条)
通常の債権は、権利を行使することができる時から10年で時効により消滅するのに対し、不法行為の場合には、通常よりも短い期間が定められています。

不法行為の場合、上記で掲げた不法行為の成立要件は、被害者側が主張・立証しなければなりません。長期間の経過により、当該立証が極めて困難になるため、通常よりも短い期間が法律で定められています。

  消滅時効期間
原則 権利を行使できるときから10年間
不法行為 被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間
又は
不法行為のときから20年間