貸金返還請求訴訟
金銭の貸し借りがあった際に、貸したお金を返してもらうために行うのが、貸金返還請求訴訟です。
訴訟を行う前に内容証明郵便で支払の催告をしたり、支払の合意に至れば訴訟を提起する必要はありませんが、もし相手方が任意に貸金返還に応じてくれないようであれば、通常訴訟、少額訴訟や支払督促など、裁判所の手続きを利用することを考えることになります。
裁判所の手続きを利用する場合には、相手方に対する貸金返還請求権が存在しているかどうかを、証拠として提出する必要がありますので、立証を証する書面として、借用書や金銭消費貸借契約書などの書面を準備する必要があります。
また、訴訟で請求が認められたとしても、自動的にお金が返ってくるわけではありません。訴訟等の手続きを経ても相手方がお金を返してくれない場合には、強制執行手続を考える必要があります。
しかし、相手方の資力や財産の保有状況などは裁判所でも調べることはできませんので、事前に回収の可能性を考えておく必要があります。
相手方が債務整理手続(自己破産や個人再生等)に入った場合や行方をくらましてしまった場合には、現実問題返還請求を行うことが困難になります。したがって、約束した期日に金銭の返還がない場合には、早急に対処しておいた方が良いでしょう。
貸金返還の具体的な手続きは以下の通りです。
まずは、いきなり訴訟手続を行うのではなく、相手方に対して、金銭支払の催告を行います。約束した期日に支払がないわけですので、相手方に支払の意思があるのかどうかをまず確認し、その後の対応によって方策を決定します。
相手方が催告に対し、分割弁済の要求や減額要求などの返答をしてきた場合には、お客様がその要求を受け入れるかどうか判断していただき、受け入れるのであれば、和解契約を締結し、相手方から返済を受けます。
※和解契約書のみでは後々強制執行を行う際に、訴訟を行わなければなりません。しかし、簡易裁判所へ即決和解の申立てをして和解調書を作成しておくか、公正証書を作成しておくと、支払がない場合にこれらの書面で強制執行の申立てをすることができます。
相手方が催告に対して何ら返答もしない場合や、支払の拒絶をする場合には、裁判所の手続きを利用して相手方に請求することになります。
裁判所の手続きを利用して相手方に請求する手段としては、次のものがあります。
支払督促 |
訴訟のように裁判所における審理を行うことなく、書面審査のみにより相手方に金銭の支払を請求する方法です。相手方が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てなければ、申立てにより支払督促に対して仮執行宣言が付されます。仮執行宣言が付された支払督促に基づき、強制執行の申立てをすることができます。 |
少額訴訟 |
60万円以内の金銭の請求を求める場合に、原則1回の審理によって判決が出される訴訟手続きです。訴訟の途中で和解をすることもでき、少額訴訟による判決書や、和解調書に基づき強制執行の申立てをすることができます。 |
通常訴訟 |
簡易裁判所での通常訴訟は、訴訟の価額が140万円以下のものが対象となります。140万円を超える訴訟については地方裁判所の管轄になり、司法書士は訴訟代理をすることはできません。また少額訴訟と同様、訴訟の途中で和解をすることもできます。 |
即決和解 |
相手方と裁判外で話し合いが進んでいる場合に、その話し合いの内容をもとに、簡易裁判所に対して和解の申立てをする手続きです。当事者のみで和解契約書を作成するよりも、裁判所の関与のもとで和解調書が作成されるため確実性が高く、その和解調書に基づき強制執行の申立てをすることができます。 |
貸金返還請求権には消滅時効が存在します。
消滅時効とは、ある一定期間の経過により、本来有していたはずの請求権が消滅してしまうという法律上の効力をいいます。消滅時効は、ただ単に期間が経過するだけで効力が発生するわけではなく、相手方が消滅時効を援用しなければなりません。援用とは、消滅時効が成立していることを主張することです。
消滅時効の効力が生じる期間は以下の通りです。
個人間の貸金 |
弁済期日の翌日から10年間 |
会社と個人の貸金 |
弁済期日の翌日から5年間 |
したがって、貸金の返還請求を行う場合には、消滅時効の期間に注意し、もし消滅時効の期間が満了してしまうおそれがある場合には、いったん消滅時効の中断をさせておく必要があります。
消滅時効の中断とは、ある一定の事由が発生することによって、消滅時効の完成に必要な期間の経過を止めることです。消滅時効が中断すると、消滅時効期間は中断したときからまた新たに進行することになります。
消滅時効の中断事由は以下の通りです。
● 裁判外で相手方に対して請求すること(内容証明郵便等での請求) |
● 訴訟や支払督促など裁判上で請求すること |
● 差押え、仮差押え、仮処分が行われること |
● 相手方の承認(一部弁済、支払猶予の申出等) |
上記のうち裁判外の請求に関しては、消滅時効の完成を6ヶ月間遅らせる効果しかありません。また何度も請求しているからといって、その都度消滅時効が中断するわけではありません。したがって裁判外での請求は、緊急的な措置として行い、その後裁判上の手続きによる必要があります。